佐藤初女さん・その3
「お料理をする心」っていうのは、その人の生き方だと思うのね。ただ食べ物を作るのではなく、「おいしい」と感じてもらえるものわ作るために、目を配ったり、手間をかける、心をかける。そう言ったことが、その人の生き方に現れてくる。簡単に済ませようとしたら、それも生き方に現れると思っているの。そして、心をかけて作られた料理は、人を変える。食事は本当に大きな力を持っているんですよ。
講演会でも、「忙しくて、お料理ができないのです」というお話はいも聞いていて。でも私は、忙しくても何か一つは作れるものがあると思っています。「忙しいからできない」と言えば、それですべては終わってしまう。でも、心持一つ、「この忙しい中、何ができるだろうか」と考えていると、何かのきっかけで、道が開けるものなの。
今すぐ食べようとするものを、急いで一から作らなくちゃいけないとなると、気持ちも焦るし、自分もお腹が空いているから雑になって、粗末なものになる。でも、佃煮や煮つけが冷蔵庫に入っていれば、まずはそれを家族に出しておいて、そのあとに落ち着いてもう一品焼いたり煮たりできます。だから、少し時間があった時に、日持ちのする常備菜などを作っておく。余った野菜が出たときに塩をふって浅漬けにしておく。そうやっていざというときに小さなおかずを二~三品用意するといいですね。
あと、朝が一番忙しいでしょうから、下ごしらえだけでも夜にしておく。夜のうちに、お味噌汁に入れる具を準備しておく。忙しい朝におかずを作れませんから。
心と体に良い食事は難しくない。心をかけた調理をしようとすればいいだけで、品数は少なくてもいいの。
ごはんとみそ汁だけで、体に必要なものをある程度賄うことができる。だから、一品、二品のおかずを作るだけですんのです。おかずを考える前に、ごはんと味噌汁をきちんとする。それが和食の基本だと思います。
私たちは、日々、自然の命をいただいて生きているの。そう思うと、少しでもおいしく作りたいし、おいしく食べたい。私は「命の移し替え」と言っているんだけど、料理は命と命をつなぐもの。だから食材の気持ちになって寄り添って作りたい。それは人もおなじでしょ。だって人と接するとき、その人が一番望んでいることはなんだろうと考えますよね。そういうふうに考えれば、感謝して、心をかけて調理すれば食材も生かされるし、おいしいものができる。そういうふうに調理された食材は、命を生かされて、いただいた私たちも元気になれるの。
「食は命」と常々私は話をしているけど、食をおろそかにすることは、命をおろそかにすることになるんです。